2007.09.21 (Fri)
「不思議の国のアリス症候群――Alice in wonderland syndrome」
―ABC―瞬きとともに一瞬のうちに景色が変わる。
19歳の少女、ケイティ・オブライエン(Katie O'Brien)はそんな不思議な世界に住んでいるかのようです。
ある時にはまるでガリバーになったように家具や調度などが小さく見え、またある時には巨人の国に迷い込んだように目の前にあるものが何倍にも巨大化して見えるのです。
「そうね、寝て起きたときからそれは始まるの。たとえば目が醒めてたまたま長椅子が目にはいったとするでしょ。瞬いて次の瞬間には長椅子が馬鹿馬鹿しいほど大きくなっているのよ。実際怖いわよ。でもちっちゃい頃は怖いというより、なにがなんだかわからず、ただ戸惑ってるばかりだったわ」
こう語るケィティの病症は、「不思議の国のアリス症候群――Alice in wonderland syndrome」という希有なもの。視界にはいるものが自分の意志とは関わらず拡大、縮小あるいは回転をともなって見える一種の錯視で、症名はもちろんルイス・キャロルのおとぎ話「不思議の国のアリス」からとられたものです。
「不思議の国のアリス症候群――Alice in wonderland syndrome」は遺伝性のものといわれ、実際にケィティの母、デニース・オブライエンもこうした経験をもち、ケイティの妹、モーリーも同じような錯視を体感していました。micropsia(小視症)やmacropsia(大視症)に似た症状は三十分ほど続くと収まり、あとは普通に見えるようになるそうです。
「『不思議の国のアリス』のなかで主人公のアリスが、自分の足が巨大化し、つま先が見えないほど遠くにいってしまった様子を、「こんどはこの世で一番おっきな望遠鏡みたいに、ぐんぐんのびてる! 足さん、さよなら!(「不思議の国のアリス」山形浩生訳)」と言っているのは、まさしくこの症例の患者が自分自身にもつイメージの典型です」。
こう語るのはメイヨクリニックのデビッド・ドティック医師。偏頭痛とその周辺症状の専門家のドティック医師は、こうした知覚の異常、身体イメージの歪みが、偏頭痛が起きる前にあらわれることに注目しています。
「知覚の異常にはさまざまな種類がある。視界でいえば対象物が限定され、それが小さな細片の集合体ととらえられることもあれば、ものすごく遠く見えたり、逆に間近に見えることもある。身体イメージとしては、とつぜん自分の耳が6インチもの大きさになったように感じると表現した患者がいた。また、空間、時間感覚が歪むと感じる患者もいる」
ケイティも妹のモーリーと空間や知覚を共有する感じ、また時間が奇妙に引き延ばされたり、圧縮されたりする感じについて述べています。
おとぎ話のエピソードとの一致から、ルイス・キャロル(本名チャールズ・ドジソン : オックスフォード大の数学教授)自身がこうした症状に悩んでいたとの推測があります。
「日記は残してないから断定はできないが、彼が偏頭痛に悩んでいたことはまちがいないだろう」と語るドティック医師。
症状そのものは、シアトルの神経科医、シーナ・オーロラ医師が「不思議の国のアリス症候群」の患者の脳をスキャン。視界からはいった対象物のサイズ、形、質感などのイメージを決定づける脳の一部で、血液の流量が異状に増していることが認められましたが、そのメカニズムについてはまだ解明されてはいません。
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