2006.10.22 (Sun)

母の最後の願いは「雪を見たい」

click!―Charlotte Observer―
「いま誰に会いたい? 叶うとしたらどんな景色を見たい?」

ターミナルケア(末期ガン患者など余命いくばくもない患者を介護する)を施すホスピス(緩和ケア病棟)専門の牧師として務めるベス・ブリテンさんは、今日も患者のもとを訪れては、そう訊ねます。

水曜日、ブリテンさんはナンシー・ワダスキーさんのもとを訪れました。 ワダスキーさん(55歳)は中皮腫に冒され、命火が尽きるのもあと僅か。 症状はすでに末期で、前の週の土曜日にこのホスピスに入院しました。 ブリテンさんはワダスキーさんにも同じように訊ねます。
すると彼女が答えました。 「最後に雪が見たい」

ジョージア州オーガスタ市に生まれたワダスキーさんは、まだ若い頃、家族とともにノースカロライナ州シャーロットに移り住みました。 彼女はこの地で子供を産み、その子供も現在では21歳。 ステファニーという名のノースカロライナ大生です。
ワダスキーさんは同州ウィンストンセーラムの近くで都市計画局員として働いていた昨夏、体に異変を感じました。 9月に病院で診てもらった結果は中皮腫。 アスベスト被曝が原因で肺や胸膜などに発生する悪性腫瘍です。 ワダスキーさんの場合、10年前に家具倉庫で働いていたときに被爆したものとみられ、昨年の発病に至ったものと考えられるそうです。

昨年のクリスマス、不治の病と悟ったワダスキーさんは家族の前でこう言いました。
「アウターバンクス(ノースカロライナ州の海岸部にある長大な砂州)に行ってみたかったわ。 それと、いちど雪というものを見てみたかったかな」
ワダスキーさんの姉妹二人と娘、ステファニーさんはこの春、一週間の休みをとって、念願だったアウターバンクスへと母を連れ立ったそうです。
「でも、雪のことは、あれ以来、お母さんが口にしたことはなかったし、それほどまでに見たいとは思わなかった」
ホスピスに入院している患者は、雪は純粋なもの、あるいは浄化のイメージだと答える人が多いそうです。

牧師のブリテンさんはなんとかして彼女の最後の願いをと、急いで心当たり何箇所かに電話をしてみたそうです。 スノーマシン? そんなもの置いてないよと断られるなかで、ひとつだけ、「一台あるにはあるけど、動くかどうかはわからんよ。 試してみるかい?」 と返事があったのはパーティグッズ、衣装などを専門に揃えるモーリス・コスチューム。 
ブリテンさん、それに娘のステファニーさんらはさっそく飛んでいき、操作方法を教わってスノーマシンをテストしてみました。 成功です。 モーリスコスチュームからは、ホスピスに寄付するという申し出もありました。

金曜日、午後3時15分。 病室で母の傍に跪き、そっと彼女の腕をとった娘は、こう訊ねました。 「お母さん、外の景色は見える?」
目をあけたワダスキーさんが娘の言葉に頷きます。 娘と家族、それにホスピスのスタッフらはワダスキーさんのベッドを、もっと表がよく見えるように窓側に向けました。
そしてカーテンを引くと、そこには雪。
もちろん最初からうまくいく筈はなく、まるで雪は下から打ち上がっているような案配でしたが、外にいたブリテンさんらが何度か試すうち、病棟の屋根に打ち上げて、そこから落ちてくるように設えたようです。 それでも窓を開ければ、風とともにまるで吹雪のような雪片が飛び込んできました。

「雪よ! 見える? 見える? お母さん」 娘は母に何度も訊ね、母はうん、と答えました。
部屋に舞う雪はそこにいた全ての人たちの顔をやさしく打ち、同じく花びらのような雪片を顔につけたワダスキーさんは、ゆっくりと手を挙げ、窓からの雪を胸で受け止めようとするかのように手の平を上に向けました。
 
「きっとあの時のお母さんには、どこまでも続く遙かな雪原が見えたんだと思うわ」。
ステファニーさんの言葉です。 そしてその直後、ワダスキーさんは後ろにもたれて目を閉じ、帰らぬ人となりました。

テーマ : 海外こぼれ話 - ジャンル : ニュース

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「いま誰に会いたい? 叶うとしたらどんな景色を見たい?」  ターミナルケア(末期ガン患者など余命いくばくもない患者を介護する)を施すホスピス(緩和ケア病棟)専門の牧師として務めるベス・ブリテンさんは、今日も
2006/10/23(月) 18:35:59 | 風風書堂‐ニュースログ‐

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