2006.09.12 (Tue)
ティナ・スモール物語(14)
それから数週間後、私はいよいよ学校を終えて社会への旅立ちを余儀なくされることとなります。当時15歳だった私は、町の職安を訪ねてまずは求人要項の書類を検討することからはじめました。
事務職見習い、店員見習いなど仕事自体はたくさんありそうでした。 でもどれも魅力的には映りませんでした。 一日中デスクに腰掛けて過ごしたり、お客が来るのを待ってぼんやりと店番をしている自分の姿が想像できなかったというのもあります。
私は自分自身、本当のところ何がしたいのかまだわかっていなかったのです。 また現実の厳しさを知って幾分気落ちしていました。 学業の成績だってよかったのですから、もっとちがう何かほかの仕事をと願っても、それが何であるかを知りません。 いずれにしても母が私をここまで育ててくれた苦労を目の当たりにしている私は、はやく収入を得ることを考えていたのです。
職安に通いはじめた一ヶ月は何の成果もなく過ぎ去りました。 地方紙に載る求人広告は更新されず、職安の募集は同じような仕事が毎週毎週引きも切らず。 疲れを感じた私はキャリアアドバイザーに面接を受けようと考えました。
明けて月曜日の午後3時に来るようにといわれた私は、まずは町の図書館に行って時間をつぶし、約束の時間の10分前には職安の建物にはいって、履歴書や学業成績を手に持ち、面接官に呼ばれるのを待ちました。
面接官、キャリアアドバイザーはブロックという名のキビキビとしたビジネスライクな女性でした。 私は緊張しながら彼女が書類をあたっていく姿を目で追っていました。
「わかったわ。 どうぞお楽になさって、クリスティーナさん。 まだ何の仕事に就きたいか考えてる途中? なにかわからないことでも?」
「はい。 事務職は向いてないかなとも思うんです。 ずっと何年も学校で机に座ってきて、いまちょっと変化のある仕事をしたいんです」
「ふーむ、これによるとあなたは5つのレベル0を取得、タイプの課程も修了したとあるわ。 なかなか優秀ね」
面接官はこう言って眼鏡越しに私の顔をじっと見つめました。
「はい、自分なりに一生懸命やったと思います。 でも事務員や店員にはなりたくなくて、もっと他の仕事をしてみたいんです」
ねえ、あなた、仕事に就くだけでも実際たいへんなのよ、我が儘言わないでと諭されるのを覚悟で言ったのですが、さにあらず、面接官は平然と私に向かい、こう言いました。
「動物に興味があるって書いてあるけど」
「はい。 動物は好きです」
「うーん、残念だけど、このせまい町では動物関係の仕事ってないのよ。 でもあなたは来月16よね? もし町を離れてもいいっていうんだったら住み込みで厩舎の仕事があるわ。 もちろん食事付きよ」
思いもよらぬ面接官の言葉は私を狂喜させました。 知らず椅子を転がしそうになるほどの勢いで立ち上がった私はこう言ったものです。
「ホントなんですか?! もしホントだとしたら…、ああ、でもいったん家にもどって母に訊いてこなければ…」
「ホントよ、クリスティーナさん。 はい、これが連絡先の住所と電話番号。 サセックスにある競走馬の厩舎よ。 調教師が見習いの若い人を求めてるわ。 もちろんお母さんとは相談しなくちゃだけど、許可がおりればやってみる?」 面接官は求人内容のメモを私に手渡しました。 私は彼女に礼を言い、席を立ちました。 面接官は眼鏡のふちに指をかけて微笑むと 「うまく行けばいいわね」 とひと言添えました。
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