2006.07.21 (Fri)
ティナ・スモール物語(10)
地下鉄でのできごとが記憶から薄らぐにつれ、私はもとのように自信をとりもどし始めていました。 専門医に診てもらったこと、またそれによって生まれた私自身は異常でも何でもない、ごく普通の女の子なのだという自信。 私の目は自然と自身の体調管理へと向けられました。 思い立って毎週土曜日に町のプールに通い始めたのです。もともと水が嫌いではなかった私は、すぐに泳ぎが上達し、普段は何をするにも邪魔になり始めていた胸が、水の中ではまるで重さを感じず、生まれ変わったような心地よさを味わっていました。
実際、すでに夜眠るときにさえ、圧迫感を感じていたのです。 バストを両サイドに広げて仰向けに寝るのが唯一の姿勢。 うつ伏せに寝るのは胸を外にかき出しても肩が浮いてしまうために無理でしたし、横向きは寝られないこともないのですが、胸が固定されたように息苦しく、寝返りをうつことさえままならなかったのです。
水泳は私の楽しみになりました。 いったん水に入ると三十分は泳ぎ続けました。 もちろんここでも、口笛を吹かれたり野卑な冗談を聞かされることはありましたが、それすらも次第に馴れていきました。 プールには都合三年通いました。 私はいつも独りで黙々と泳ぐだけ。 むしろ誰とも関わりをもたず、干渉されないことで気が楽でした。 ところが、三年目の夏に事件が起こりました。
15歳くらいの少年が私の前で水を打ち、飛沫をかけたのです。 無視して過ぎろうとすると、偶然かどうか彼の水を掻いた手が私の水着の肩ひもに掛かりました。 私のトップはストラップを首の後ろで結ぶタイプのもので、その結び目がほどけてしまったのです。 必死に結わきなおそうとしたのですが、水を含んだトップが吊った胸は重く、どうにしてもひもが首の後ろに届きません。 プールから上がろうにも両腕はいったん縁にかけなければなりません。 口笛と歓声が響くなか、私は胸をはだけたままでプールから上がり、一目散に更衣室に向かいました。 体を拭くのも忘れ、服を着て逃げ出すように更衣室を後にすると、受付で呼び止められました。 どうやらこのプールを任されているようなその女性は、私に対してこう言ったのです。
「あんたねぇ、前々からあんたにはむかついてたのよ。 子供も来ているような場所で何て格好してんのよ。 恥ずかしくないの?」
「で、でも私のせいでは…」
「口答えしないで! いったいお家ではどんな躾をされてるの? あなたのやってることは売春婦と同じよ。 二度とウチには来ないで。 このあばずれ女!」
私は三年間通い慣れたプールに再び足を向けることはありませんでした。 それにしても乳房の外見ばかりが他人のこんな怒りを買うなんて、あなた、信じられます?
プール通いをやめた私はローラースケートに興味を持ちました。 爽快に風を受けて滑り出し、軽やかに景色が後ろに過ぎっていくさまは私の心を捉えました。 私には合っていたとみえてスケーティングの技術はすぐに上達しました。 その後暫くは私のお気に入りのスポーツといえばローラースケート。 今なお好きだったりします。
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