2006.05.27 (Sat)
ティナ・スモール物語(6)
とはいえ、内心おどおどしながらもこのような事件が私を徐々に強くしていったことは確かです。その場から逃げ出したい、隠れたいと思いながら私は逆に挑発するかのごとく、虚勢をはることも覚えました。
女子にとって体育の授業というのは詰まらないものです。 ゆえに出席する必要のなくなった私は、特権を手にしたような気がしました。 また胸の包帯をとってから、通学のバス待ちの列で男子生徒の反応を見るたびに私は、ハンディばかりではなく逆に恵まれた資質をもっていることにも気づきはじめました。
バスの中では愉しいことがあったかと思えば、悪夢のような出来事もあり、退屈はしませんでした。 二階建てバスの下のフロアは男女で占める場所が分かれているのですが、上は混じって団欒がとれるようになっているのです。 上級生には彼氏のいる子もいて、仲良く並んで座っていたりもしました。 そこで交わされる会話といえば、ほとんどが下ネタばかり。 女子校に入り立ての頃は、少なからず赤面したことを憶えています。 当時の私といえば、自分の胸の大きさが与える影響に対しても見事なまでに無知でしたが、次第にそれがわかってきたのです。 いうなれば、私は胸によって自分自身のありようを決定づけられたのかもしれません。
バスの話にもどって、私は男の子たちの満更でもない態度に自信を持ちはじめました。 乳房を別としても顔立ちは可愛い方の部類、それに体は均整がとれていた方でしょう。 ときどきこちらをじっと窺っている男の子の視線を感じては自惚れたものです。
もちろん殆どの男の子は、私が見返すとあわてて目を逸らすのですが、なかには目を逸らさずに下品な冗談を飛ばす子もいます。
「なんてでけぇおっぱいだよ!」、あるいは 「おっぱいでフットボールできそうじゃん」。 私は時間とともにこういった冗談を聞き流す余裕も出てきましたが、ある日事件が起こりました。
学校帰りの夕方でした。 前に立っていたにきびだらけの男の子が、振り向きざまに両手で私の胸をつかんだのです。 生まれて初めて他人から受けた暴行でした。 カッとなった私はいったんは堪え、彼が身を翻して席につくと、学生鞄からコンパスを取りだして男の子に近づき肩甲骨の真ん中目がけて突き刺したのです。
一瞬間、身をこわばらせて固まっていた男の子は、次の瞬間バス中に響きわたる怖ろしい悲鳴をあげました。 すぐさま車掌が階段を駆け上がってきます。 まるで惨殺死体がどこにあるのかと訝しむような目つきの車掌に、その場にいたハーバート・ヤードリイという名の男の子が口を出しました。
「ああ、けどよう、そこのニキビ野郎が先にあいつの胸を揉んだんだぜ」。
車掌は肩をすくめると、「わかったわかった。 あんまり騒ぎを起こすなよ」 と言って下りていったものです。
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